帰って来た怪獣おもちゃ・その1

今回の投稿は、帰って来た怪獣おもちゃ・その1

第二次怪獣ブームを玩具業界内部から
見た、中の人達の証言記事になります

この記事、怪獣人形ファンとしては、
必修項目だと思うので、今回載せる事
にしました。






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特別企画
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帰ってきた怪獣おもちゃ
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怪獣が帰ってきた。
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この業界にあって、一度市場から消え
たものは、再び日の目をみることはで
きないというジンクスがあった。

ところが、数年前市場から姿を消した
怪獣がマスコミにおけるブームの再来
とともに、いままた華やかなスポット
を浴びはじめた。まさに奇跡である。

市場には、ソフト人形からペンダント
ヘルメット、ブロマイド、紙芝居にい
たるまで怪獣おもちゃが、ところ狭し
と並べられ、とぶような売れ行きであ
る。まさに怪獣おもちゃオンパレード
といった感じ。

なにが、人気を呼ぶ原因で、いつまで
その人気が続きそのセールスポイント
はどこにあるかを探ると同時に、怪獣
おもちゃに関する諸問題を検討してみ
るのは、ブームにあるだけに意義も深
かろう。

そして、このマスコミの生んだ最大の
キャラクター・怪獣を大事に育てるた
め、小売サイド、メーカーサイドのと
るべき姿勢を考えてみよう<編集部>

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プロローグ
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木材を筏にして桴が運んでいると突如
筏が持ち上がって木材が宙に四散し、
海中から大怪獣ザザーンとタツコング
が出現。タツコングがザザーンのヒレ
をくわえて振り回せば、ザザーンも赤
茶けたガズを吐いて応戦、勝鬨橋を二
つに突き上げてなおも大格闘は続く。
人間は右へ左への大混乱で、車はつぎ
からつぎへと海中に没していく。

これは関係者の大きな期待と一抹の不
安のうちにスタートしたテレビ映画、
「帰ってきたウルトラマン」(制作・
円谷プロ、TBS)シリーズ第一作の
冒頭シーンである。

昭和四十一年七月から39回にわたっ
て放送された「ウルトラマン」続いて
四十二年十月から四十三年九月まで四
十九回放送された「ウルトラセブン」
の新シリーズで、ひところチビッ子た
ちの間に爆発的な怪獣ブームを呼んだ
「ウルトラマン」もののブラウン管再
登場である。

「ウルトラマン」は平均視聴率三十七
・六%、「ウルトラセブン」は二十六
・五%という高視聴率をあげリピート
ものでも午後六時台で平均十八%の高
視聴率をあげているし、前二作の決戦
場面だけを毎日五分ずつ放送している
「ウルトラファイト」(昭和四十五年
九月二十八日より百二十回)もけっこ
ういい線をいっているところから「こ
れなら十分いける」という関係者の一
致した意見でカムバックが決まったも
のである。

このTBS「帰ってきたウルトラマン
」に先だって、一月からスタートした
フジテレビ「宇宙猿人ゴリ」(毎週金
曜日午後七時~七時三十分)も、平均
十三%の視聴率をあげている。

一方、怪獣ものの、元祖ともいうべき
「ゴジラ」をつくった東宝でも、この
春休みを狙って「怪獣大戦争・キング
ギドラ対ゴジラ」を再映し、チビッ子
マーケットの独占をもくろんでいる。

また英国版”怪獣もの”「恐竜時代」
(ハマー・フィルム作品)も三月二十
日東京・築地の東劇で封切られ、大変
な人気である。

テレビや映画で人気になれば、ほかの
産業も、だまっているはずのないのが
情報化時代の常である。

東京世田谷の二子玉川園では、三月二
十日より「ウルトラ怪獣大会」を開催
折からの春休みとあって、連日子ども
づれの入場客で賑わい悦に入っている

また、出版界に目を向ければ、子ども
のマンガ雑誌にはほとんど毎号怪獣が
登場しているし、学習雑誌であるはず
の小学館発行「小学何年生」の低学年
向きのものにいつも怪獣がのっている

さらに絵本(万創、エルム、黒崎出版
ほか)もあれば、怪獣の特徴を説明し
た図鑑(秋田書店ほか)まで出版され
ている。図鑑には二十数版を重ねるも
のもあるくらいである。

そして前記小学館発行「小学二年生」
四月号の付録に、百九十六匹の正義の
味方や怪獣を印刷したシタジキをつけ
たところ、他の号よりかなり多くの部
数が出たということである。

シタジキといえば、文具業界でも、ス
ケッチブックやクレヨン、ぬり絵、ノ
ート(昭和ノート、セイカノート、サ
ンスター文具)などに、怪獣のキャラ
クターを使っているしバッグ(福正)
ハンカチ(岩本)、シャンプー(サン
スター歯磨)サンダル(東屋)枕(河
村産業)などにひっぱりだこの人気で
ある。

そして、もっと華やかなのが、わが玩
具業界、怪獣人形、指人形、花火、風
船、ペンダント、ヘルメット、面、ブ
ロマイド、メンコ、ステッカー、浮輪
プール、ビーチボール、かるた、すご
ろく、絵合せ、紙芝居、プラ模型、、
枚挙にいとまがないくらいである。

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なぜか怪獣が人気になる
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巨大さ、狂暴性、破壊力、勧善懲悪の
ドラマ、、、、、
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それでは、怪獣はなぜこんなに子ども
に人気があるのだろう。

昭和二十九年十一月封切り「ゴジラ」
から今度の「キングギドラ対ゴジラ」
まで二十二作品を上映し、いずれもヒ
ットしている東宝では、「はじめのこ
ろは、大人を対象としてつくっていた
が、そのうち、子どものほうに人気が
出たので対象を子どもに移した。

そのため、はじめは悪役だったゴジラ
を善玉にしたり、子どもうけのする、
ストーリーにするなどの操作もしたが
四十二年十二月に第十九作目の「怪獣
島の決戦・ゴジラの息子」でゴジラの
ジュニアとしてミニラを登場させてか
らは人気が完全に子どもに定着した」
(東宝宣伝企画室・池田曠氏)とみて
いる。

「帰ってきたウルトラマン」のプロデ
ューサー橋本洋二氏に聞いてみよう。

「リピートでも怪獣ものはたいへんな
人気であり、『また怪獣ものをつくっ
てくれ』という投書も多く、子どもた
ちが待ち望んでいたことは確かだ。

その人気の秘密ということになると、
これは児童心理学者の分野になるので
断定はできないが、私個人としては、
たいがいの子どもが持っている気味悪
さに対するある種のあこがれのような
ものが、怪獣という形でキャラクタラ
イズされたところが受けているのでは
ないかと考えている。

われわれ大人が、子どものころ、おば
けという気味が悪く、こわい存在に対
して抱いていたものと同じ感情で、現
代っ子は怪獣をとらえているのではな
いだろうか。ただ、昔のおばけは、話
として知らされただけで、はっきりし
た形はなかったため、それぞれのおば
けに対するとらえ方は違っていたが、
怪獣はテレビや映画、あるいはそれを
もとにした各種商品によって、具体的
にどういうものであるかを目で確かめ
ることができるだけに、より親しみが
わいてくるのだろう。

とくに茶の間でテレビの怪獣と接する
ことができるということで、子どもた
ちは怪獣に親近感を抱いているようで
あり、そういう意味では、怪獣は映像
の生んだ新しいキャラクターであり、
子どもの人気ものだといえよう。それ
とおばけや幽霊は私たちが子どものこ
ろにはひょっとしたら『出る』かもし
れないという存在だったし、それだけ
に心理的な恐怖感を伴う陰気な気味悪
さを持っていたのに対し怪獣はどちら
かといえば陽気なものであり、子ども
たちも決して現実に出現することのな
い、物語の中のつくりものとしてとら
えているところに、より親近感がわい
てくるのではないだろうか。

それともう一つは、子どもの心の中に
影のようにやどっている狂暴性、強大
な破壊力に対するあこがれが怪獣によ
って具現されまた、その人間社会に害
をなす怪獣を、人類の味方・ウルトラ
マンが現れて倒すところに代替満足感
を抱くのだろう。ちょうど、大人が、
ヤクザものやチャンバラものをみると
きに抱く感情と同じものを子どもたち
も求めているのだろう」

「帰ってきたウルトラマン」の制作を
担当している円谷プロでは

「自分たちも、はじめのころはなんで
怪獣が人気になるのかわからなかった
が、子どもからの投書やこれまでいろ
いろの怪獣を登場させてみて、それぞ
れの反響などから分析してみると、子
どもたちはとてつもなく大きいものに
対してあこがれを抱いており、その破
壊力にシビレ、豪快さに目をみはり、
同時に必ずそれを、上回る力を持った
ウルトラマンなりウルトラセブンが現
れて、怪獣という名のワルをやっつけ
るという勧善懲悪のドラマ性にひかれ
ていることがわかった。

そして、いまや怪獣は子どもにとって
一種の、ペットのようになっているよ
うな面も多分にあるのでなかろうか」
(円谷プロ・末安正博営業課長の話)

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過去への郷愁、未来への誘い
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それでは、怪獣で日夜販売競争を繰り
広げている玩具業界人は怪獣人気をど
うみているか聞いてみよう。

「子どもたち自身の豊かなイマジネー
ションの飛躍のために、日常生活から
は、得られにくい”恐怖””不思議”
”ハレンチ”ナンセンス”など非合理
的なものへの関心や欲求は、子どもた
ちの心に深く根を張っているのではな
いか。

それと同時に強いもの、万能なものに
対するあこがれ、快、不快、興奮など
といった子どもの基本的な情緒性に訴
える力が大きいことも人気になってい
る要素といえよう」(トミー・森修生
マーケティング計画課長の話)

「遊び場が少ないうえに、勉強などを
大人たちが強要されている現代っ子た
ちにとって、強くて大きくて、自由奔
放に暴れ回る怪獣は、たまらない魅力
の持ち主として映るからであろう。

そして、怪獣が現れる前提としてSF
的な現代っ子好みの段どり、理由づけ
が組まれていることも、見逃せない人
気の原因であろう」(米沢玩具・大熊
得之企画課長代理の話)

「時代の推移は人間を規格の中に閉じ
込めようとしているが、そういう中で
逆に規格外へ人間性を求める向きもあ
り、原子社会の強烈な個性を秘めてい
る、へんてこな格好をした怪獣がまさ
にぴったりなものである。

口から火を吹いてみたり、空を飛んで
みたり、おおよそいまの時代に出現す
れば、人間の力などとうてい及ばない
代物ばかりである。そんなところが、
子どもたちに人気を集めているゆえん
ではなかろうか。

そして、過去への郷愁を漂わせる一方
では未来の創造へとも発展し、子ども
たちをなんの疑いもなく未来へ引っぱ
っていく。このような多面的な魅力を
持つものは怪獣をおいてほかにない。
そういうものへのあこがれによるもの
ではないか。」(ブルマァク石田光田
郎社長の話)

以上のような各段階諸氏の意見を総合
してみると、怪獣の人気はその狂暴性
強大な破壊力に対するあこがれ、日常
生活では得られない”恐怖”不思議”
”ハレンチ”ナンセンス”など非合理
なものへの関心と欲求など、子どもの
潜在意識を巧みにキャッチし、精神的
にも不安定な子どもを押さえつけられ
た現実の社会から逃避させ、一時的に
しろ夢幻の世界に遊ばせてくれること
にあり、それと同時に”怪獣” のも
つドラマ性が日本人の好みにマッチし
た勧善懲悪であることによるものとい
える。